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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)6020号 判決 1968年9月02日

原告 鈴木菊太郎

<ほか四名>

以上五名訴訟代理人弁護士 森美樹

森有子

被告 稲田正生

<ほか三名>

以上四名訴訟代理人弁護士 植木敬夫

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの連帯負担とする。

事実

第一、求める裁判

一、原告ら

1  原告らに対し、

(一) 被告稲田正生は、別紙物件目録第二(一)記載の建物を収去して同目録第一(一)記載の土地を明渡し、かつ昭和四一年七月一六日から右明渡済みまで一ヶ月金一、五四五円の割合による金員を支払え。

(二) 被告島村正治は、別紙物件目録第二(二)記載の建物を収去して同目録第一(二)記載の土地を明渡し、かつ昭和四一年七月一七日から右明渡済みまで一ヶ月金四〇八円の割合による金員を支払え。

(三) 被告高橋右人、同高橋棟子は、それぞれ、別紙物件目録第二(三)記載の建物を収去して同目録第一(三)記載の土地を明渡し、かつ昭和四一年七月一六日から右明渡済みまで一ヶ月金四〇八円の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  この判決は仮りに執行することができる。

二、被告ら

1  原告らの各請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二、主張

一、原告らの請求原因

1  原告らは別紙物件目録第一記載の各土地(以下、本件(一)、(二)、(三)土地という)を共有しているところ、被告稲田は本件(一)土地上に同目録第二(一)記載の建物(以下、本件(一)建物という)を所有し、被告島村は本件(二)土地上に同目録第二(二)記載の建物(以下、本件(二)建物という)を所有し、被告高橋両名は本件(三)土地上に同目録第二(三)記載の建物(以下、本件(三)建物という)を所有し、いずれも昭和四一年七月一六日以前から当該土地を占拠している。

2  本件(一)土地の賃料相当額は一ヶ月金一、五四五円、本件(二)、(三)土地についてはいずれも一ヶ月金四〇八円である。

3  よって原告らは土地所有権に基づき、各被告に対し、各所有建物を収去して、当該土地を明渡し、かつ被告稲田、同高橋両名に対しては昭和四一年七月一六日から、被告島村に対しては同月一七日から、各自の土地明渡済みまで、それぞれ、右2の賃料相当額の損害金の支払を求める。

二、被告らの認否

請求原因1の事実は認める。同2の事実は否認する。本件各土地の賃料相当額は一ヶ月三・三〇平方メートル当り二七円である。

三、被告らの抗弁(転借権)

1  訴外栗田与兵衛は遅くとも昭和一〇年頃までに原告らの父鈴木作次郎からその所有であった本件各土地を含む別紙物件目録第一記載の土地のうち五三四・二六平方メートルを建物所有の目的で賃借し、同地上に本件各建物その他の建物を建築所有していた。

原告らは昭和三五年一月八日作次郎の死亡により、本件各土地の所有権と共に右賃貸人の地位を承継したものである。

2  被告稲田の父久吾は、昭和二六年四月二六日栗田与兵衛から本件(一)建物を買い受けた際、本件(一)土地を転借し、そのころ原告ら先代の管理人である曽我野秋松から右転借について承諾を得た。

被告稲田は昭和四一年一月父の死亡により、訴外稲田広と共同で右転借人の地位を相続したものである。

3  被告島村は昭和三一年ごろ、栗田与兵衛の相続人から本件(二)建物を買い受け、同時に本件(二)土地を転借し、そのころ原告ら先代の管理人曽我野秋松から右転借について承諾を得た。

4  被告高橋右人の父であり同高橋棟子の夫である訴外高橋金平は昭和三一年ごろ栗田与兵衛の相続人から本件(三)建物を買い受け、同時に本件(三)土地を転借し、そのころ原告ら先代の管理人曽我野秋松から右転借について承諾を得た。

被告高橋両名は昭和四一年五月二七日金平の死亡に因り右転借人の地位を相続したものである。

5  なお栗田与兵衛は昭和三一年ごろ死亡し、右賃借人の地位は相続人が承継したが、本件各土地の賃料支払方法については、被告らが栗田に支払うべき転借料を直接原告に持参し、栗田に代って支払うことに、原告ら先代の管理人曽我野秋松と被告らとの間で昭和三三年八月一五日に合意が成立し、以後は、被告らの中の一人が、全被告の転借料をとりまとめて、曽我野に支払って来たものである。

四、原告らの認否

抗弁1の事実は認める。同2の事実は、曽我野秋松が原告ら先代の管理人であり、賃料受領について代理権を有していたことは認めるが、転借について承諾を与えたことは否認し、その余は不知。同3の事実は、曽我野の地位、権限につき右2の答弁と同じ、承諾の点は否認、その余は不知。同4の事実は、曽我野の地位、権限につき右2の答弁と同じ、承諾の点は否認、被告高橋両名の相続関係は認め、その余は不知。同5の事実は不知。

第三、証拠関係≪省略≫

理由

一、請求原因1の事実および抗弁1の事実は当事者間に争いがない。そこで、被告らの転借権の抗弁について判断する。

1  ≪証拠省略≫を総合すると、

(一)  被告稲田の父久吾は本件(一)建物を栗田与兵衛から買受けると同時に、その敷地である本件(一)土地を転借し、土地転借料を栗田の娘婿藤田末次郎に支払っていたが、栗田与兵衛はやがて死亡し、昭和三二年七月分以降の転借料は藤田も取立に来なくなった。

(二)  そこで稲田久吾の娘婿稲田広は昭和三三年八月一五日原告ら先代作次郎の差配として本件土地等を管理していた曽我野秋松(同訴外人が管理権を有していたことは当事者間に争いがない)の許を訪れ、この間の事情を説明し、稲田の転借部分のほか本件(二)、(三)土地の転借人のためにも、右各転借料を本件(一)、(二)、(三)土地の地代として受領してもらいたい旨を申し入れたところ、曽我野はこれを承諾し、昭和三二年七月分から昭和三三年三月分までは坪当り七円の割合による月額三八四円(約五五坪分)でよいが、昭和三三年四月分以降は坪当り一二円の割合による月額六五九円(約五五坪分)の地代を要求し、稲田広はその場で、久吾および本件(二)土地の転借人被告島村、同(三)土地転借人高橋金平に代って、これを承諾し、昭和三三年六月分までの右新旧地代の合計額を支払った。

(三)  そして、以後の地代は、年二回払とし、稲田方で本件(一)、(二)、(三)土地の地代を取りまとめておくので、一括して曽我野が本件(一)建物に居住する稲田広宅にこれを取立に来ること、が同時に当事者間で約束され、以後継続して、少くとも昭和三九年一二月分までは、このとおり本件各土地の地代の取立がなされ、この間に、地代はさらに月坪一七円、ついで同二七円と逐次増額改訂され、借地面積についても、当初五四坪四合九勺とされていたものが、実測面積として六〇坪四合七勺にその後訂正され、この実測面積によった地代が徴収されるようになった。

(四)  なお、稲田広は右(二)の交渉の際、久吾が転借中の本件(一)土地を直接原告から賃借するように借地人名義の変更をしてもらいたい希望も表明したが、曽我野は本件(一)、(二)、(三)土地を一括して稲田久吾が賃借するというのであれば考慮してもよいが、本件(一)土地のみを切り離して、借地人名義を変更することはできないとして、稲田の右(一)土地のみの借地権の譲受については承諾を与えない態度を示したので、以後の地代も、栗田に代って右転借人らが支払うことで双方了承した。

との事実を認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫

2  右事実によれば、曽我野は本件(一)土地を稲田久吾が、同(二)土地を被告島村が、同(三)土地を高橋金平が各転借したことについて、原告の差配として承諾を与え、かつ栗田が支払うべき本件土地等の賃料のうち、本件(一)、(二)、(三)土地相当分については、これを右各転借人が栗田に代って支払うことを容認し、これを取立債務と約定したものと認めるべきである。(なお被告島村が本件(二)土地を、高橋金平が本件(三)土地をそれぞれ栗田与兵衛ないし、その相続人から転借していたことについては、本件(二)、(三)建物が栗田与兵衛の所有であったところ現に被告島村および被告高橋両名の所有となっている事実および≪証拠省略≫によって明らかであり、反対の証拠はない。)

3  原告鈴木六男は、曽我野にはかかる承諾を与え得る権限はなかったもののように供述するけれども、≪証拠省略≫によれば、曽我野は原告ら先代作次郎によって昭和三三年春ごろ本件土地その他の土地の「差配」に選任され、作次郎所有の約四、五〇〇坪の貸地、借地人の数にして約八〇人に及ぶ土地賃貸借契約について、賃貸人である作次郎に代ってその賃貸借関係の管理の任に当っていた者であり、作次郎から「鈴木」の印章を託され、主に賃料徴収の事務を処理したけれども、前示認定のとおり、賃料増額の交渉も担当し、自他ともに「差配」として認められていたことは明らかであり、作次郎が曽我野を「差配」に選任するについて、その代理権をとくに限定したことを認めるに十分な証拠はない。してみると、代理権をとくに制限しないで土地賃貸借関係の管理に任ずる権限を与えられた曽我野は、いわゆる「差配」として、少くとも土地の管理行為に属する転貸借承諾の権限を有していたものと認めるのが相当であるから、曽我野のなした前示の承諾は、賃貸人作次郎の承諾として有効なものと解するのが正当である。≪証拠判断省略≫

4  そして、被告稲田が稲田広と共に久吾の本件(一)土地転借人の地位をその死亡に因り昭和四一年一月共同相続したことは≪証拠省略≫によって明らかであり反証はない。また被告高橋両名が高橋金平の本件(三)土地転借人の地位を昭和四一年五月二七日共同相続したことは当事者間に争いがない事実である。

二、以上のとおり、被告らはその主張のような転借権をもって作次郎の相続人である原告らに対抗できるものであるから、本件各土地を適法に占有しているものであり、原告らの請求はすべて失当である。よって本訴請求をいずれも棄却し、民事訴訟法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山本和敏)

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